事業承継/M&Aが実行される場合、どのような手続きで行われるのでしょうか。
1:専門家、アドバイザーの選定、相談
経営者や従業員など、会社内部の人員のみで対応することも考えられますが、第三者への事業承継(M&A)は法律や会計などの専門性の高い知識が必要となる手続きが多く、専門家のサポートがない状態で進めていくのは難しいというのが実情です。
M&A仲介会社や、弁護士、公認会計士などの士業専門家等のサポートを受けながら、対応していくことになります。
M&A仲介会社に依頼する際には、アドバイザリー契約を締結し、業務内容や範囲、報酬などを規定します。
2:事業評価、売却条件の検討
M&Aの目的や、譲渡会社が希望する条件、例えば、譲渡金額のほかに、M&A実行後の従業員の待遇、取引先との関係、社長の関与の仕方など、を十分検討しておく必要があります。
また、専門家とともに、譲渡会社の経営状況や純資産、負債などの正確な状況把握を行います。財務上のインパクトのある簿外債務や、事業上の課題、譲渡会社の強みである特許や独自のノウハウ、優良な顧客先などを洗い出していきます。その内容が、候補者に提供する情報の正確性や譲渡会社が想定する企業価値の内容につながります。
企業価値を算定するにあたっては、資産・負債の状況、収益構造やキャッシュフローの状況、事業の市場性などを基礎として検討します。
中小企業のM&Aの場合は、時価純資産にのれん代(年間利益に一定年数分を乗じたもの)を加味した評価方法、あるいは、営業利益+減価償却費の5年分などの目安が用いられることがあります。
3:承継先候補者の探索、選定
譲渡会社の営業状況や事業内容を調査した上で、事業の譲受を希望する会社やその事業とのシナジーが期待できる会社を大まかな形でリスト化します。作成されたリストから、業種、地域や規模などをもとにして具体的な候補者を絞り込んでいきます。
絞り込んだ候補者に打診するために、譲渡会社の社名が把握できないノンネーム情報と具体的に譲受を検討するための詳細情報を記載したIM(インフォメーション・メモランダム)を作成します。
最初に候補者にノンネーム情報を提示して、興味の有無を確認します。候補者が興味を持った場合には、秘密保持契約を締結した上で、社名を含めた詳細情報が記載されているIMを提供します。
M&Aの検討を具体的に進めたい候補者が、ある程度絞られたところで、トップ同士の面談を行います。この面談では、主に、トップ同士の肌感覚や、譲渡会社と譲受企業の経営ビジョン、譲渡後の運営方針や経営状況などのお互いの理解を深める場です。
また、面談では、事業上重要な情報を譲受候補先に伝えることが必要です。アドバイザーに頼るのではなく、経営数値面を含め、正確な理解を自分の言葉で正確に伝えることが重要です。面談の段階で、この社長が経営する事業で大丈夫か?という意識を持たれることは避けたいですし、またデューデリジェンスの段階で、いきなり問題点が噴出すると、不信感を抱かれることも多く、取りやめの要因にもなり得ます。
4:売却先の決定、基本合意書の作成
候補者が譲渡会社に提示した条件や意向表明を基に具体的な条件交渉に入ります。候補者が複数ある場合には、価格や様々な条件の優劣の入札結果を踏まえ、候補者を決定していきます。
条件交渉の結果、金額やスキームなど基本的な事項が双方で合意できた場合には、基本合意書を交わすことが一般的です。基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが多いです。
5:承継先によるデューデリジェンス(価格に影響する問題や事業価値等の調査)
デューデリジェンスは、事業の承継先が、譲渡会社について、M&Aの実施の是非やその後の事業運営に必要となる情報や問題点を洗い出するために実施する作業です。
承継先が条件提示に用いたIMや財務情報は、譲渡会社が用意したもので、承継先としては条件提示の前提になっている情報と譲渡会社の内部資料を確認、検討する必要があります。仮に事前の情報と検証した結果が大きく乖離する場合には、価格を含めた提示条件の修正や、場合によってはM&A自体が取り止めになることもあります。
このため承継先にとっては、過大なリスクを抱えたり、結果的に高額な買収金額になったりしないように、また円滑に統合作業を進めるためにもデューデリジェンスを実施することが望ましいといえます。
6:最終契約の締結
デューデリジェンスの結果を基に、最終的な譲渡条件や、事業譲渡、株式譲渡等の譲渡スキームを確定させ、譲渡契約書を作成します。双方が契約内容に合意できれば、譲渡契約書を締結します。
7:クロージング
クロージングは、株式譲渡であれば株式、事業譲渡であれば対象資産と対価である資金の引き渡し決済を行うことです。契約締結日とクロージング日は準備の都合で、一定の間隔があくことが多いですが、必要以上に期間が伸びることを避ける必要があります。契約の中で、付帯する条件を調整する条項を設ける場合もあります。